あいたい
秋恵!
そう言って駆け寄った私の目の前で、秋恵は消えた。
指先が触れた。
そう思った瞬間だった。
なにかにかき消されるかのように、彼女がいなくなった。
「秋恵?」
私の唇がそう紡いで。何度も何度も紡いで。けれど秋恵の姿はもうない。
「どうして……?」
思わず零れ出た言葉が、空しく響いて、私はその場に蹲った。
信じられなかった。
信じたくなかった。
秋恵が、消えた。
流されたの?
同じクラスの友達。おとなしい、と言われてしまう私とは違って、明るくてはきはきとした、大切な親友。
私が悩んでいることに気付いてくれた。悩みを打ち明けられない私に、変わらずに接してくれた。
どうして彼女がいなくならなくてはならないのだろう。
どうして。
大好きだったのに。
私はあなたを助けられなかったのだろうか。
胸中でつぶやいて。
私はもうその場から動けなかった。
私が家に帰ったのは、もう真夜中の静けさに包まれた後だった。
夏休みだから学校はない。
だから、会おうとしない限り、誰にも会う機会はない。
けれど、会おうとしても、秋恵には会えないかもしれない。
携帯電話を握りしめて、私は目を瞑った。
いや、きっともう会えないのだ。
秋恵は流された。
それが事実で、だから会えないのだ。
体が動かない。
そういえば、ご飯を昨日の夜から食べていない。ベッドに転がったまま、動けない。
携帯電話のボタンを押す力さえない。
秋恵の電話の番号を、押せない。
会いたいのに――。
ねえ、秋恵。
会いたいよ。
唇がそう動き、けれど声は出なかった。
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突発的なもの。
某少女のシリーズ最新からです。
ゆずきのきもち。
08.12.28.UP