注意!
 このページのみですが、ぬるい性的描写があります。
 あくまでもぬるい範囲ですが、
 そういうものが嫌な方は、どうぞおひきかえし下さい。

 大丈夫な方は、スクロールどうぞ!
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     ゆめ、うつつ。そんな私たち。 4



 遠い街灯。
 夜の暗闇の中、自分の唇に、彼女のそれが合わさる。男の人のそれよりもずっと柔らかな感触に、五十鈴は目を閉じた。

 もう、幾度も繰り返したことであるのに、少しの照れくささと彼女への想いが、五十鈴の胸に熱をともす。
 この流れのまま、私はこの人と交わるのだろう。五十鈴は桂子の唇を、感じながら、ふとそう思う。

 もっとこの人に触れたい。
 そう感じる自分がいて、たぶんそれは桂子も同じで。
 だからきっと、いずれ自分たちは、触れあうことになる。

 桂子の唇が、五十鈴から離れていく。五十鈴はそれを少し寂しく感じながら、目を開けた。暗闇に慣れた五十鈴の目。そのすぐ前にあるのは、桂子の顔で、彼女の大きな目が五十鈴を見ている。多分きっと、自分もこんな風に見えているのだろうな、と五十鈴は思った。

「五十鈴……。また、明日」

 桂子は五十鈴を見つめたままそう言った。

 また明日。

 散歩の後、桂子はいつもそう言う。五十鈴も、また明日、と頷いて、別れる。
 明日が晴れでも、雨でも、タイミングもなく、二人は会うことができる。そういう、知り合いを越えた関係ができあがったときから、それは変わらない。

 触れあうだけのキスをするようになっても、変わらない。


     *  *  *


 五十鈴は、いつだったか彼女に聞いたことがある。家には殆ど誰もいない、と。あれは出会って、何度目の散歩のときだっただろうか。
 母は他の男と家を出て行ってしまい、父は仕事で家を空けることが多い。家には誰もおらず、ひとりぼっち。さらには彼女は同性愛者であるから、人とうまく交われない。彼女は、一般的な視点から見れば、かわいそうな人だ。

 けれど、かわいそうだからこそ、一層愛おしい。いとおしい。
 それは彼女を、より現実的な人間にする。恋愛対象であることに、そのいとおしさが付加される。

 五十鈴は、そう思っている。
 風邪で、桂子の制服がひらりと動く。パーカーごしにもひやりとした空気が入り込み、五十鈴はぶるりと震えた。

「ね、今日はうちに来る? うちも今日は親いないから、泊まれるよ」

 だから、そうすることに、なんのためらいもなかった。触れたいと思ってしまったのだから。



 ベッドで隣同士に座って、話をする。桂子の顔が、五十鈴に近づき、唇が触れて。長い時間が経って、離れていく。
 寂しい。五十鈴はそう思って、桂子にしがみついた。ぎゅう、と。そして倒れる二人の体。

 二人の髪が、散らばる。交わる。
 触れたい。
 五十鈴はその思いのまま、桂子に口付けた。初めて自分から。
 唇が離れたとき、桂子は今までにないくらいの笑顔で、五十鈴も微笑んだ。

「ね、触りたい」
「うん、私も」

 そう言って、桂子は五十鈴を抱きしめた。互いのぬくもりが伝わる。
 しん、とした空間。
 衣擦れの音。

 ひやりとした感触が五十鈴の背中に触れ、背骨をなぞる。桂子の手によって、ブラジャーのホックが外され、五十鈴は手を握りしめる。
 桂子は、パーカー、ティーシャツ、ブラジャー、ジーンズ、と五十鈴の体から取り外していく。丁寧に。

 五十鈴は、外気の冷たさに、体を震わせる。彼女の目の前では、桂子が制服を脱いでいた。下着だけという姿になって、五十鈴を見つめる。

「ね、あったかい」

 桂子は、そのまま五十鈴を抱きしめる。肌から肌へと、直に伝わるぬくもり。
 その気持ちよさに、五十鈴はまた、桂子に触れたいと思った。

「私がやる」

 そう言って、五十鈴は、さっき桂子がしたのと同じようにして、ホックを外し、それを取り去った。そうして、恥ずかしいから、と二人でクスクスと笑いながら、最後の一枚を自分たちで脱ぐ。

「きれい」

 互いに全裸で向き合ったとき、ふと気付いたかのように、桂子は言った。そうして、五十鈴に近づいて口付ける。触れるだけでなく、口を開け、舌を絡ませる。
 知らない、行為。けれどどうしてかそれが自然に感じられることに、五十鈴は驚いた。

 ん。互いに時折、漏れる声が、驚くほど艶っぽい。
 そうして、桂子の手が、五十鈴の胸に触れる。唇が、首筋に、そして胸の方へと動く。
 ちゅ。時々、そんな音がする。
 くすぐったい。不思議な感覚が五十鈴に宿る。五十鈴はぎゅう、と桂子を抱きしめた。

 くすくす。
 桂子が笑う。
 胸、気持ちいい。やわらかい。
 桂子が言ってから、五十鈴の胸に口付けた。ちゅ。また音がする。

 そうして、互いに無言のまま、体のありとあらゆるところへ桂子の唇が触れ、五十鈴もまた、時折それに答えるように触れてゆく。

 胸、背中、お腹、腿、膝。桂子の唇が動くたびに、五十鈴の体は、何かを感じ取った。
 ふと、桂子は最後にその場所に口付けると、移動して五十鈴を抱きしめた。
 桂子の手は、五十鈴のその部分へと向かう。柔らかな指が触れたとき、五十鈴のそこはしっとりと濡れていた。

 桂子は五十鈴のその部分をゆるりと撫でる。途端に今までにない感覚が五十鈴を襲った。
 ん。
 五十鈴の口から、今までに聞いたことのないような声が漏れる。桂子は、五十鈴に触れるだけの口付けをした。そうして、五十鈴のその場所を、円を描くようにして撫でていく。ゆるり、ゆるりと。

 そのたびに、五十鈴の口から声が漏れる。
 ぴちゃり、と水音が室内に響く。桂子は、五十鈴のその場所にも口付ける。そして舐めて、触って。

 五十鈴の声が、上がる。
 とろり、とろりと、溢れていく。溶けていく。
 抱き合って、口付けて。
 ――――触れ合って。
 ゆらり、ゆらりと、夢うつつのような感触が、そこにはあった。

「好き」

 ぎゅう、と抱きしめ合う。この行為がこんなにも切実なものだなんて、五十鈴は今まで思ってもみなかった。

 ただの、快楽のためのものだとしか思っていなかった。単純で、現実味のないものだと。それなのに、五十鈴はその行為が、何よりも現実であるように感じた。快楽が二人を繋ぐだなんて、不思議。五十鈴は胸の中で呟く。

「私も」

 そう言うと、桂子は五十鈴をさらに強く抱きしめた。


     *  *  *


「また夜に」

 そう言って桂子は五十鈴に口付けると、五十鈴の家から出て行った。それを見送ってから五十鈴は目を閉じる。
 目蓋の裏からでも伝わってくる朝の光。
 昨夜のことを思い出す。唇をかみしめる。

 ためらいなど持たなかったけれど、後悔がないわけではない。本当はきっと、その行為自体が自己満足なのだとわかっていた。
 現実を現実と感じるために、自分には彼女が必要で。そしてそれはきっと彼女も同じで。

 五十鈴はわかっていたのだ。
 桂子に触れることが、触れられることが、自分を苛む行為であるということを。けれど、五十鈴はそれを望んだ。

 愛しいものに触れる、触れられる。
 彼女の手で、唇で、存在を感じる。
 それは現実を感じることでもあったから、純然な想いではない気がして、少し苦しい。

 男女であったならば違っただろうか。少し考えて、五十鈴は止めた。きっとそんなに変わらない、とふと思ってしまったから。
 五十鈴はゆっくりとドアを閉めた。



「おはよう」

 五十鈴がそう言うと、美穂や、クラスの女の子たちからも同じ言葉が返ってくる。自分の席に向かおうとすると、美穂から呼び止められた。

「五十鈴ー」
「なにー?」
「課題、また忘れちゃった……」
「とりあえず、席行かせてよ。なんの教科なの?」

 そう言いながら、私は自分の席に行くと、机の上に鞄を置いた。

「古典なんだけど、ありがとう五十鈴」
「最近多いし、気を着けた方がいいよ」

 ほっとしたように表情をゆるませる美穂に、とりあえずの忠告をして、五十鈴は鞄から古典のノートを取り出した。
 学校生活は全然変わらない。
 昨日、自分が何を思ったか、何を感じたか。そんなものは全く反映されずに動いていく。進んでいく。
 美穂が自分の席に戻り、せっせとノートを写している。それを見ながら五十鈴は思い、苦笑した。


 その夜も、五十鈴は、桂子に会いに行く。





*********************

終了。
いや、長くなってすみません。
でも初です、こういうシーン。無駄に頑張りました……。





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